自動販売機マッピングしてみた

2年生 R.M

●はじめに

 自動販売機はロボットである。

 真四角な鉄製の機械が「ガタガタゴトン」と乱暴に飲み物を出す。力加減とかまるで分かってない。かと思えば光ったりしゃべったり、不器用なコミュニケーションも取ってくる。たまにお金を入れても飲み物を出さないなど、人類に反乱を企てたりもする。自販機のそんなところは、子供のころマンガや絵本で見たロボットとそっくりだ。

 そんなロボットたちが、この街には何台も、何十台も、何百台も身を潜めている。気が付いたら機械に日常が浸食されていた、みたいな変なワクワク感がある。

 この記事は、そんな自動販売機にスポットを当てたものだ。

 第1号ではKさんが「ヘンテコ自販機」を取り上げてくれたが、僕が取り上げるのはヘンテコではない普通の自販機だ。その普通の自販機が、街のどこにどれだけ身を潜めているか、エリアを決めて徹底的にマッピングしてみたい。

 マッピングして、そこから何が見えてくるかはわからないが、とにかくやってみよう。


●調査の概要

 調査は夏休みにおこなった。昼間に比べれば多少は涼しく、またじろじろと人に見られることもない夜遅くに自動販売機を探して歩き、その位置とメーカーを地図に書き込んでいった。自販機の種類は飲料に限定した。


 調査エリアは、最初は神戸市中央区全体を目標にしていたが、調査を始めてすぐ、それがあまりに無謀な目標だったことに気が付いた。

 自動販売機はどこに置かれているかわからない。したがって大通りだけでなく、存在する路地をいちいち全部、一本残らず歩いて見ていかなくてはならないのである。また、後で述べるが、自販機はコカ・コーラやサントリーなど、見てすぐにメーカーがわかるものだけではない。機械を上から下まで見ても、裏をのぞき込んでも、いったいどこのメーカーかわからない謎の自販機も多いのだ。こうした調査の難しさが、僕の時間と体力をみるみる奪い取っていった。

 バイトなどで調査ができない日もあったが、夏休みが終わるまで、延べで言うと2週間くらいを費やして調べたのが、以下のオレンジ色の範囲である。


(元にした白地図は「みんなの行政地図」より)

 中央区全体どころかそのほんの一部に過ぎないが、これが限界であった。地名が入った地図上に示すとこうなる。

 メリケン波止場から海岸線の駅を超え、JR元町駅へ、そして県庁の手前までというこのエリアをみて、「あー、大学を目指して北上して、途中で力尽きたのかwww」と邪推する人もいるかもしれないが、まったくその通りである。

 心残りはあるが、ともあれ現時点での調査結果を報告していきたい。


●調査結果

 今回発見した自動販売機は198台。結果は Google Map のマイマップ機能を使い、「神戸市中央区自動販売機マップ」というものを作って、そこにマッピングした。

 200台調べたにしてはマークの数が少ないように見えるが、これは各社のマークが重なってしまったためである。もう少し見やすく、メーカー別にまとめていこう。

●大手メーカー系自販機

コカ・コーラ 41台

 調査エリアで一番多かったのはコカ・コーラの赤い自販機だった。

 神戸でコカ・コーラといえば、Kさんの記事の最初にも出てくる長安門(南京町の東の入り口)の「可口可楽」自販機が有名だが、今回、もっと地味な別パターンの「可口可楽」自販機を、南京町の西の方で見つけた。コカ・コーラなのに赤くない。なんだか違和感がある。


サントリー 31台

 2番目に多かったのはサントリーの自販機である。「サントリーの自販機ってどんなのだっけ? そんなにたくさんあったかな?」と思うかもしれないが、「BOSS の自販機」と言えば、その数の多さは納得いくのではないか。


伊藤園 21台

 3番目に多かったのは伊藤園の自販機である。白地の地味な自販機だが、1台だけ、ピカチュウの絵が入ったにぎやかなデザインのものがあった。ポケモンGOのジムと連動しているらしいので、場所ははっきり書かないでおく。マップに示した21台のどれかがピカチュウ自販機なので、ぜひ探してみてほしい。


アサヒ 20台

 1台差で4位になってしまったのがアサヒの自販機である。僕はカルピスとドデカミンをこよなく愛しているのだが、そのどちらもアサヒということで、個人的にはアサヒの自販機推しである。

 歩き疲れた路地の奥、光り輝くアサヒの自販機は神殿のようであり、そこで授けられるドデカミンは、まさしくMP回復のポーションであった。この記事の半分はアサヒのドデカミンでできているといっても過言ではない。


キリン 15台

 キリンの自販機も白地だが、赤い大きな文字で KIRIN と入っているので地味な印象はない。いちいち歩いて近づかなくても遠くから識別できるので、自販機研究家にとってはありがたい機体である。


その他メーカー 24台

 その他にも以下のようなメーカーの自販機があった。ダイドーはよく見かける気がするが、数えてみると意外と少ない。ロゴが目立つのだろうか。また、ポッカとサッポロは同じ会社であった。知らなかった。


チェリオ10台
ダイドー7台
大塚製薬4台
ポッカ・サッポロ3台

●激安系自販機

 おそらく地元の中小零細メーカーが生産しているのであろう、あまり聞いたことがない商品名のコーヒーやジュ―ス、お茶などを、100円で、ところによっては80円で販売している自販機である。「プライベートブランド自販機(PB自販機)」という呼び方があるようである。

 ただし無名の商品だけでなく、サントリーやキリンなど大手メーカー(ナショナルブランド)の商品も混ざっており、それらの商品の値段も純正のメーカー自販機より安い100円になっている。このあたりの価格設定や仕入れの仕組みが、調べてもよくわからないままなのだが、ともあれこういう売り方を「ブランドミックス」といい、こうした自販機を「ミックス機」とか「プライベートブランド/ナショナルブランド混載機(PB/NB混載機)」ともいうそうだ。

 いろいろややこしいので、とりあえずこの記事では、一般的な「激安系自販機」という言い方を使っておく。


 激安系自販機は46台見つかった。41台のコカ・コーラを超えて、実は調査エリア内で一番多い自販機なのだが、設置している会社は様々である:


ツーダウン17台
Vender(ジャパン・ベンダー?)6台
Yamakyu(山久)4台
ASEED、ECHO、ネオス、フルラインナップバリュー、ハイクラス・ドリンク、フレッシュ各1台
会社名不明13台

 一番多かったのが「ツーダウン」という会社が設置している自販機である。名前は知らなくても、価格をハンマーで叩き潰すこのシールやPOPは見たことがあるのではないか。


 次に多かったのが、本体に "Vender" と書いてある自販機。「ジャパン・ベンダー」という会社のものだと判断したが、ひょっとしたら「自販機」という一般名詞的な意味で書かれているだけで、会社名ではないかもしれない。


 「フルラインナップバリュー」「ハイクラス・ドリンク」「フレッシュ」も同じで、会社名なのか単なるデザイン的な文字なのか、いまひとつわからない。会社名っぽい文字すら見つからず「会社名不明」とした自販機も多い。

 また、色やPOPは設置会社ごとに違っていても、機械そのものはどれも同じに見える。大元は同じ会社なのだろうか。激安自販機にはいろいろと謎が多い。


 謎の度合が高かった自販機その1。PB/NB混載機であるだけではなく、ソフトドリンクと酒の混載機でもある自販機。こういう混載ってありなんだろうか? 法律的なところは大丈夫なんだろうか?


 謎の度合が高かった自販機その2。「おいでや」の驚安自動販売機Kさんの記事にあるように西成に多いそうだが、JR元町駅前でも発見。この意味なく空いた商品スペースが、われわれの常識や価値観がまったく通じない世界への入口のようでゾクゾクする。


●分析

 さて、苦労の末に作成した自動販売機マップだが、ここから何が分かるだろうか?

 調査前は「この通りはコカ・コーラ、この通りはサントリー」といったメーカーごとのなわばりが浮かび上がってくるのではないかと予想していたが、そんなものはなかったようである。なわばりどころか、各メーカーの自販機が偏りなく広がり、混在し、共存した状態が街全体にできあがっていることが、自販機マップからは確認できる。

 これは考えてみれば当たり前である。自社の自販機10台を一か所にかためても一人の客しか拾えないが、10か所に散らばせば10人の客を拾えるチャンスができる。各メーカーが自社の利益を最大化しようとすれば、結果、自販機を散らばせた各社の混在状態ができあがるわけである。なわばりを作って対立するより共存する方がお得というのは、多文化共生にからめて、人間社会にも示唆があるようなないような話である。


 もうひとつ、自販機は大通り沿いだけではなく、小さな路地にもたくさんあることが、このマップから分かる。

 大通りから離れた小さな路地に置かれた自販機を見るたび、買う人がいるのか疑問に思ってきたが、考えてみれば大通りには自販機より品ぞろえが豊富なコンビニもあるし、暑さ寒さをしのげるカフェやファストフード店もある。わざわざ自販機で飲み物を買って飲もうとは思わないだろう。自販機で飲み物を買おうというニーズが発生するのは、コンビニもカフェも近くにない路地裏なのである。自販機は、人通りのない路地裏に置くのが正解なのである。

 しかしそのせいで、自販機をマッピングしようとする者は、存在する全ての路地を歩かねばならなくなるのだが……。


 さらにもうひとつ、ハーバーランドやメリケン波止場のようなおしゃれなエリアには、激安自動販売機が、結界でも貼られているかのように1台も侵入できていないことも、マップから確認できる。

 まあ確かにデート中、彼女に「何か飲む?」といって、ためらもなく驚安「おいでや」自販機に30円を入れて、聞いたことのない名前のみかんジュースを買い、笑顔で「ハイ」と手渡したら、速攻フラれることは間違いないが。


 以上が、神戸市中央区(の一部)の自動販売機のマッピング、およびその分析についての報告である。ご高覧たまわり感謝の至極である。


おまけ

 宇治川商店街で、冷凍生餃子の自販機を見つけた。いろんなものが自動販売化できるものである。お買い得だと思う。ぜひお買い求めあれ。


指導教員のコメント

 こういう自分の足で歩く以外に集められないデータというのは、本当に価値があるよね。激安自販機の結界には笑いましたが、これも相当な手間暇かけないと見えてこない境界線です。素晴らしい。

 もっと広いエリアがマッピングできたら、さらにいろんなことが分かるんだろうなあ……。

 あのさ、2週間でこれだけ調べられるんなら、春学期の授業を犠牲にしてマッピングに集中したら、中央区全体行けるよね? ちょっと相談したいことがあるので、後で研究室に来てください。