漁船に乗って神戸を見てきた

●神戸のイメージ写真
第1号のN君の記事「ポートタワーの限界を探しに行く」の冒頭には、ポートタワー、ホテルオークラ、海洋博物館の3点を撮った写真が引用されている。

この3点セットは神戸を表すイメージ写真によく使われるものだ。実際、Googleに「神戸」とだけ入れて検索すると、異人館でも南京町でもなく神戸港、というか上の3点セットの写真がずらっと出てくる。少なくともネットの上では、この3点セットが神戸という地域を代表するイメージになっているようだ。
しかし神戸市民としては、この状況に納得いかないところもある。
この写真はおそらく神戸港にある大型ショッピングモール umie から撮ったものだ。umie からは対岸のメリケンパークにあるこの3つの建物が真正面に見える。はじめて来た人は思わず撮ってしまうし、「今日は神戸に来たよ」というツイートと一緒にネットにも上げるだろう。結果として「神戸」といえばこの3点セット写真がネットにあふれることになる。
しかし神戸には――神戸の中の神戸港の、そのまたメリケンパーク周辺だけに限っても――ランドマークになるような特徴的な物件は他にもいっぱいあるのだ。
たとえばこの3点セットから300メートルほど南、中央突堤の先には、波の形をした巨大な白い建築物「オリエンタルホテル」がある。また umie の岸壁で後ろを振り返れば大きな観覧車も目に入るだろう。神戸なんだから停泊している大型客船も画面に入れたいし、それら全体の背景には、海の際まで高層ビルが並んだ港湾都市をばばーんと写し込みたい。
そんなこんなの物件を1枚に入れ込んで、それではじめて「神戸を表すイメージ写真」になると思うのだ。
お手軽な「3点セット」ではなく、外部の人に自慢したい神戸をぜんぶ盛りした「神戸よくばりセット」みたいな写真を撮りたい。買い物客まかせではなく、こちらから積極的に新しい神戸のイメージ写真を提案したい。
そんな写真が撮れるのは角度的に……

ここらへんしかないだろう。海の上である。
そう、神戸は港町だ。「陸から目線」ではなく「海から目線」でなければその真の姿をとらえられるはずはなかったのである。
海から目線で神戸を撮る! ……でも、どうやって?
(ここまでK.N)
●どうやって海へ出る?
海の上から写真を撮るためにはどんな手段を使えばよいか。ゼミの先生に相談してみた。
「ビート板で沖まで泳いではどうか。わたしもちょうど大学2年生の時に挑戦しました。その偉業は全国紙で大きく報道されたものです。」
本当か。図書館のアーカイブで当時の記事を調べてみた。
いや、遭難してるし。全国紙でめっちゃ叱られてるし。
先生は頼りにならないので、われわれは緊急会議を開くことにした。
「どうやって沖に出るかだけど……」
「うち、船あるよ」
「!?」
「でも操縦する人がいないやん」
「船舶免許も持ってる」
「!?」
こうして会議は5秒で終了した。われわれは小型船を操縦して沖に出ることになった。主要なランドマークをぜんぶ盛り込んだ、真の神戸の姿をカメラにとらえるために――。
●船出する
7月25日、われわれは神戸市某所の船着き場に集合した。さすが明日から始まる期末試験のことなどガン無視で集まったメンツだ。面構えが違う。

これがわれわれの乗る汎用船型決戦兵器「らいちょう」。小型の船体に175馬力のエンジンを搭載したモンスターマシンである。危険なため、普段は青色の拘束具で凍結されている。

船着き場から船を出すK。舵を切るというのは、自動車で言えばハンドルを回すと後輪が動くような感覚だろうか。よく器用に動かせるものである。

船着き場から出るといきなりエンジン全開。激しいスピードに船首が持ち上がり、波にぶつかってザッパーン! 揺れるの揺れないのって、どっちなんだって話。
え? だからどっちなんだって話! いま話しかけないで! 舌をかんでしまううううううううう!
デッキにしがみつくこと十数分、船は神戸港の最終防衛ラインを突破。オリエンタルホテルやポートタワーが見えてくる。そうそうこれ! この絵面をわれわれは求めていたのだ!
(ここまでT.I)
●海から見た神戸
ではさっそく海から神戸を眺めてみよう。洋上のこの位置から、まずは神戸港をぐるっと見回してみる。
東側にはポートアイランドが見える。ヤシの木など植わったリゾート気分の建物は神戸学院のキャンパスだろうか。

北東方向。写真右の赤い橋はポートアイランドと神戸本土をつなぐ神戸大橋。写真左のビル郡は神戸市役所など三宮の中心街。

真っ正面の北側には丸い形のオリエンタルホテルがあり、その後ろにポートタワーと海洋博物館、ホテルオークラが見える。

北西方向。逆光になってしまって見えにくいが、写真の中央にumieモザイクの黄色い観覧車がある。

西側。クレーンがたくさん並んでいるのは川崎重工の工場。

もう一回正面に戻って、今度はアップ。陸からだとポートタワー、海洋博物館、ホテルオークラの「3点セット」しか撮れないが、海からだとオリエンタルホテルを中央に入れた「4点セット」が撮れる。

さて、それでは今回の目的であった、神戸港のランドマークを容赦なくぜんぶ盛りした「神戸よくばりセット」写真を公開しよう。こちら!
どうだろうか?
「ハーバーランド」と「メリケンパーク」と「三宮中心街」というのは、最寄り駅(神戸駅・元町駅・三ノ宮駅)に関係した概念的なエリア分けかと思っていたのだが、こんな風に見た目でもわかるようなはっきりした3ブロックに分かれているとは思わなかった。海から神戸を眺めて、はじめてわかった事実である。
翌日からの期末試験はボロボロだったが、神戸のランドマークをだいたいぜんぶ入れた、新しい神戸のイメージ写真を提案するというミッションは、こうして大成功をおさめたのであった(自慢)。
さあ家に帰ろう……といいたいところだが、その前にもうひとつ、「燃料代の足しにするため魚を捕る」というミッションがわれわれにはあった。
(ここまでT.K)
●魚を捕る
次なるミッションのため、われわれは神戸港をあとにした。

途中、アルフォートのチョコ面に刻印されているような帆船とすれちがう。襲いたい。襲ってお宝をうばいたい。14世紀の東アジア沿岸でなぜ倭寇が発生していったのか、その気持ちがよくわかる。海賊いいなあ。海賊のインターンシップとかないものか。

そうこうする間に須磨に到着。海上に廃墟のようなものがある。もともと海釣り公園だったが数年前に台風で全壊。修復費のめどが立たず放置されているという。海上は立ち入り禁止の廃墟、しかし海中はおさかな天国であろう。さっそく仕掛けを準備して海に落とすと……

針の数だけ魚が上がってくる。やばい、楽しすぎる。釣れたのはおいしそうなアジ。
だがKは「こんなこまい魚、釣ってもしょうがない」といって、ポイポイ海に捨ててしまう。こいつには人の心がないのか。

……と思っていた矢先、強烈なアタリが! 必死で竿を立てながらリールを巻いていくと、あがってきたのは大きなアジ!
群れにあたったのか、このサイズのアジが次々に釣れる。

高級魚メバルも釣れた。

夢中で釣っているうちに日が暮れてきた。カモメも家に帰る。われわれも帰ろう。

夜の海をひた走る。

船着き場に戻ると、大きなアジがさらに大きなブリに進化していた。この辺が神秘の海、瀬戸内海のふしぎである。

●神戸を食べる
釣った魚はみんなで山分けした。これが自分の分。ブリは大きすぎてクーラーに入らなかったので船着き場で頭を落として来たのだが、そのせいで家族から「魚屋で買って来たのではないか」とあらぬ疑いをかけられた。

きまぐれにクックしてみたが、Youtubeで見る動画と違い、魚をさばくのはかなり大変だった。包丁が小さいからか、魚が大きすぎるのか。

それでもなんとかお刺身が完成。これでも半身の半分くらい。量が多すぎて盛り付けに気を回す余裕はなかった。
ではいただきます。もちもちとした歯ごたえがすごい。新鮮だからか。刺身も「肉」であることを実感する。ちなみにブリなのに赤身なのは、太平洋と瀬戸内海を行ったり来たりしている回遊性のブリだからだそうだ。魚屋でみる白身のブリは、瀬戸内海にこもっている陰キャのブリらしい。

だがここで疲労の限界が来て、僕は寝てしまった。寝ている間に高級魚メバルは家族に食べられてしまったので食レポはできない。悔しい。
まあしかし、残りのブリの身はおいしい煮つけにしてもらっていたので良しとする。ちなみにI君はブリをバター醤油でムニエルにしたそうだ。あーそれもおいしそう!

アジが3匹残っていたので塩焼きにした。想像通りにうまい。神戸って大きな地方都市なのに、その一方でこんな海の幸が沖には群れている。なんだかすごい。噛みしめる度に神戸への愛が深まっていく思いだ。

ちなみにK君が「こまい」といって捨てようとしていた小アジを、なんとか死守して家に持ち帰ったI君は、南蛮漬けにして堪能したそうだ。
そうか、南蛮漬けという手もあったか。食べたいなあ。これじゃあまた神戸の海に行くしかないんじゃないの!?
(ここまでY.N)
指導教員のコメント
期末試験と引き換えに君らが撮ってきた、ランドマークぜんぶ盛りの新しい神戸のイメージ写真、しかと受け取りました。
とても素晴らしい写真ですが、海抜ゼロメートルから撮ったせいか六甲山地が街のすぐ背後にせまって見えます。神戸が実際より狭い印象で伝わってしまいそうです。おそらく位置はこのままで、上空100メートルくらいから撮っていたら、神戸の街の奥行きまでも俯瞰でわかる、もっとすごい写真になったはず。
ビート板に続く適切なアドバイスとなりますが、巨大な風船を体に結びつけて空に浮かんでみたらどうでしょうか?