伊藤 MASA 正則(HM/HR評論家) 1997年10月
 いま僕たちは、真のアーティストのかき鳴らす時代の音に、魂をかきむしられる幸福を享受しようとしている。そう、90年代を代表するアーティスト、ナメキケイが、そのソロアルバム「極限4.5」を、ついにリリースしたのである。

 ファンのみんなには説明するまでもないが、97年の春にリリースされた「極限4」は、ピンクフロイドの「狂気」とチャートの100位を激しく争う大ヒットを記録した。極限ファンなら擦り切れるまでプレーヤーの上に置いたことだろう。
 しかし「極限4」には、現在大阪でさびしくひとり暮らししているアーティスト、ナメキケイがあまり参加できていない。さらにアーティストは、来年1月から数年間、某国の山奥へ人類学の調査に行ってしまうという。もうナメキ色の音を聴くことはできないのだろうか……。

 そんな僕らの悲痛な叫びに答えてくれたのが、このソロアルバムなのだ!
 壁の薄い大阪のアパートで、隣人のヤンキー夫婦と戦いながら録音されたこれらの楽曲は、僕らへのゴキゲンな置き土産であると同時に、「4.5」という中途半端なナンバリングからは「帰国するまでに『極限5』、頼むぜ」という強いメッセージも伝わってくるだろう。
 ありがとう、ナメキさん、そしてお元気で、ナメキさん!

詞/曲:ナメキ / 1997年
高尾山で最近浮浪者が野性化
狩猟採集しながら独自の文化築く
浮浪者達はどこから来たのか
そしてどこへ行くのだろう あーあー

摩周湖のほとりに流れついていた
ザリガニの甲羅 しかし大きさは2m
巨大ザリガニのさまよえる湖よ
その水面に何を映すのか あーあー

信じられないが本当のことなんだ
確かな情報を入手したのだ
信じてるだけでは 解けない謎だから
だから出した計画書なのだ Yeh!

そして僕らはいま旅立つ(自然の仕掛けたワナの中へ)
そして世界は変わっていく(謎の扉を開くたびに)
マーボのこぼれた銀マに 凍えた身体を横たえて
明日の謎を夢見てる

去年から御嶽の上流のダムの上で
突然吹き出す水 目撃されている
御嶽で今何が起きようとしているのか
それは人類への警告か あーあー

長野県小諸の麦粒のような地層
掘り出せば食べられる それは謎の生き物
暗黒世界に息づき続ける
この地球の真の支配者よ あーあー

君のためだけに立てた企画なんだ
君の心の叫びが届いた
僕一人だけでは解けない謎だから
だから書いた君の名前ここに Yeh!

そして僕らはいま旅立つ(自然の仕掛けたワナの中へ)
そして世界は変わっていく(謎の扉を開くたびに)
上級生への憎しみ ボートの重みで抑えこみ
はるかな謎へ歩いてく

合宿の企画が見つからないという現役部員達の声に答え、手近な探検スポットをいくつか紹介した曲。
もっともアーティストの提供する情報は、確実すぎて探検にならないかもしれない。簡単な計算をしてみよう。
中国の野人が(いるかいないか分からないので仮に)いない確率を半々の1/2とする。同様にオーストラリアで撮影された30mのうなぎや、奥多摩で捕まった50cmのみみず、牛久沼で探検部を襲った謎の生物も1/2とする。すると、こういう生き物がどれも実在しない確率は1/2×1/2×1/2×1/2で1/16である。ということは、これらの生物のうちのいずれか一つが実在する確率は15/16、つまり93.75%に達するのだ。
アーティストは、彼の通う国立民族学博物館のマザーコンピューターでもたしかめ算をしたらしいが、やはり同じ数字がはじき出されたという。
詞/曲:ナメキ / 1997年
みなみの島から(やしの実が)
ぷっかりぷかぷか (やってきて)
大きな葉っぱをつけました
朝からお昼寝楽しいな
なまけものの島だ おーおー

そしたらなまこが(やってきて)
昼寝をしようと(思ったが)
まくらをしく時かんがえた
どちらが頭か分からない
かいがらのまくら おーおー
白い船が島を目指して 帆をあげる
南風を探し当てたら出発だ
ずっと前になくした地図をたどる旅

そんな夢を見る(僕のねこ)
風がゆらすひげ(起こさないで)
おおきなあくびで立てたしっぽ
ちょっとゆすって起きちゃった
背中のばして歩き出す
ある日ねこは遠くの街へ行っちゃって
そして二度と僕の家には帰らなかった
きっと何か大事な用があったんだろうね

またいつか知らない街で会えるよね

ありよっちののほほんとした声が、われわれをいやしとやすらぎの世界へいざなうナンバー。
歌い手の視点が「やしの木→なまこ→ねこ→ヒト」と移っていくところは、アーティストによると、地球46億年の生命の進化史を正確に再現したものだという。
また一説によれば、アーティストのアパートの部屋の床下で野良猫が子育てを開始。子猫たちのあまりのかわいさ、またある日急に一家全員いなくなってしまったという悲しい別れの記憶から、急遽猫の歌詞が付け足されたともいわれている。
詞:ナメキ(協力:つるを)/ 曲:ナメキ / 1997年
そこのお嬢さん
ご機嫌ななめの5-6の昼下がり
お出かけなんていかが
うきうき御嶽のどきどき川下り
ゴムぼっちがぷかぷか
さあ1、2、3でこげば
くるくるまわって前に進みやしない
まるで僕らの恋みたい
空に浮かんだ白い雲と雲が
風に吹かれてキスしてるのさ
そうさ一番好きな人は
きみなのさ

何をながめてるの
ふくれっ面した窓際の天使
お天気もサイコーだし
どうですオソロのつなぎで樹海でも
僕の確保で 降下する君は
すばやくプリティー完璧ラブリー
グッときちゃうよマイハート
一目ぼれしちゃうよ
僕ら見つけた光のかけら達
ハート型した出口に続く
そうさ一番好きな人は
君なのさ
愛してる

曲中の「ゴムぼっち」とは、渋谷のコギャルに人気の電子ペット「たまごっち」の一種。
今ある4メン(4人乗り)のボートも、実はアーティスト達の代が、2メンのボートをいっしょうけんめい世話して大きく育てたものである。4メンのあまりの重さに憎しみを抱く現役生も多いと聞くが、いい加減に扱うと悪いゴムぼっちに育ってしまうので注意してほしいものである。
曲:ドビュッシー / 編曲:ナメキ / 1997年
耽美的なピアノ曲として解釈されてきたドビュッシー「二つのアラベスク」の最初の方のやつを、アーティストが真に正しく解釈しなおしたインスト曲。
2:30以降では、当時流行していた「ブレイクビート」が驚くほど安易に取り入れられている。また、そのすぐ後で始まるスネアやバスドラの連打は、さらに新しい流行の「ドラムンベース」なのだという。
採譜の際、コード進行上納得のいかない音が鳴っている箇所が多々あったそうだが、これらはドビュッシーの誤りと判断し、全て訂正したとのこと。
詞/曲:ナメキ / 1997年
ねこみたいにひげが のびてきたなら
おさかなたくさん 食べれるかな
雨降り街の 雨降りねこに
今日はなりたい気分です

だけれどもかえるの天気予報では
あしたはお陽さま会えるはずさ

食べないたまごいくつもゆでる
いまはそんな気分です
でもお天気ねこのあしおと
ほら気がつけば 雨もあがってる

まあるいどんぐりを探しに行こう
ポケットに入れたら音がするよ
雨降りねこがお外をみてる
僕はどこにも行けないの?
でもお天気ねこのあしおと
ほら気がつけば雨もあがってる

(悪い意味で)かわいいと評判のありよっち声を、極限まで追求したらどうなるのか、万人の疑問と好奇心を満たすために、アーティストがありよっち専用に作ったテクノポップ。確かに「まあるいどんぐりを……」の辺の歌いっぷりは、人間でいうとだいたい20歳代半ばにあたるありよっちの年齢を、みじんも感じさせないかわいらしさである。
詞/曲:ナメキ / 1997年
まぶしい朝の陽が 目玉焼きのフライパンに
あふれて しまいそう
魚にエサあげて ネクタイきゅうと締めたその時に思った
御嶽のテン場で マーボなすが食べたい
別においしかないんだけど

街角 カフェテラス ニューズペーパー読みながら
彼女を待ってた
彼女が手を振って 駆けよりかけたその時に思った
小袖のテン場でラジウスを焚きたい
別に意味はないんだけど
もう一度でいいから合宿に行きたい
それはかなわぬ願いなのか

探検部員の就職率は30%にも達し、そのうちの約半数は3ヶ月以上も仕事を続けることに成功している。このように将来のエリート養成機関ともいえる探検部だが、OB達は時にラジウスのニオイをふと思い出し、強い郷愁に胸を締め付けられるという。そんなヤンエグたちの気持ちを代弁しきった一曲。
熱帯魚を飼っていたり、ニューズペーパーを読んだりする者をエリートとみなすアーティストの安易な思い込みは、SPA!世代の僕らに強く訴えかけるのである。
詞/曲:不明 / 編曲:ナメキ / 1997年
野生の馬 野生の馬 野生の馬は
走り去る 尾をなびかせて
筋肉の躍動 躍動胸に
どこまでも どこまでも 駆けてゆく
夏の嵐の中を イナズマに向かって
イナズマに向かって オーオー オーオー
野生の馬 野生の馬は
どこまでも 駆けてゆく

ある時馬は立ち止まる
自然の不思議感じてか
目をつむり 銅像のように 動かない

野生の馬 野生の馬は
どこまでも 駆けてゆく

アーティストが中学生の頃、クラス対抗の合唱コンクールで歌った曲。作詞・作曲者はなぞに包まれているが、そのハードコアかつメロディアスな曲調は、当時から多くのHR/HMキッズのハートをわしづかみにしてきた。
そんな楽曲へのリスペクトを込めて、今回アーティストの手により安易なメタル化が試みられた。クラシックとロックの融合という、いま最も新しい試みがここに実現されたのである。
だが、コンクールの時に「下のパート」を歌っていたアーティストの記憶には一部あいまいなところがあり、一部リスナーからは「なんかメロディーが違う」などのきびしい批判も巻き起こっている。
リードギターはつるを。「馬のいななきをギターで再現してくれ」というリクエストに見事に答えてくれた。
詞:ありよっち / 曲:ナメキ / 1997年
vvvv
かわいた心の白さに焼き付けた
きのうと違った景色をうけとめる
月夜が 照らし出す
壊れた風見どり
このまま くるくると
時間の川のなか
あまい夜かぜにそっと吹かれて
波の音だけ聴いていたい
星を数えて 雲をたどって
朝の風おとひびくまで

目を閉じて息をととのえ
さあ行こう道はあるよ
にじのかけらも 見つかるさ
さあ歩き出せ

今でも月のひかり見て思い出す
窓辺でひそかに流れるオルゴール

広い大地に身体しずませ
遠い汽笛を聞いていたい
雨に打たれて 雪に埋もれて
春の陽射しが 照らすまで
目を閉じて 息をととのえ
さあ行こう 道はあるよ
にじのかけらも見つかるさ
さあ歩き出せ
さあ歩き出せ

ありよっちが歌詞を書いた。普段のありよっちの言動からは想像のむずかしい耽美的、かつ大人的なこの歌詞により、従来のゆがめられたありよっち象は一新されることになるだろう。
詞/曲:ナメキ / 1993年
オレの目の前で荒れ狂う 東シナ海
かりゆし丸の甲板で うなれオレのギタァ
着いたぜ那覇に とっても暑いぜ
そうさここは南西諸島さ

御嶽(うたき)の森を調べたら
オバアに叱られた
オジイの系譜を調べたら
女元祖(いなぐがんす)だった
着いたぜ那覇に とっても暑いぜ
そうさここは南西諸島さ

御嶽(うたき)の森を調べたら
オバアに叱られた
オジイの系譜を調べたら
女元祖(いなぐがんす)だった

スバらしいな 南西諸島学会
いいヒトばかりさ 南西諸島学会

めんそーれ!

奄美や沖縄を研究する人類学者の集まり「南西諸島研究会」の依頼を受け、1993年にアーティストが作った曲。関係者にしか発表されなかったが、ファンの要望に答え、今回アルバムに収録されることになった。
ロバート・プラントに大きな影響を与えたといわれるアーティストのボーカルは、いま聞いても心をえぐるようである。
詞/曲:ナメキ / 1997年
お酒っていうのはさ、意外に簡単につくれるんだよね。
酵母菌を使って、糖分を二酸化炭素とアルコールに分解させる。要するに甘いジュースに、スーパーとか売っているドライイーストを入れるだけ。
Only It !

それだけでお酒になるんだよ。
できあがりはスパークリングワインみたいな感じかな。でも、よりおいしく、確実に作るコツっていうのもあってね…… え? 知りたい?
じゃあね、まず1.5リットルのジュースを買ってきて。種類は何でもいいよ。 それをまず200ccくらい飲んじゃおうか。理由は後でいう。
Say Later !

おっと、口飲みしちゃダメだ。雑菌が付くからね。
で、残ったジュースのうち、半分をなべに移してグツグツ煮立てよう。それで砂糖を思いっきり……そう、200グラムくらい入れちゃおうか。
Two hundred grams !

それをもう一回ペットボトルに戻す。さっき少しジュースを飲んでおいたのは、砂糖を入れた分、量が増えるからだ。
戻すときはじょうごをつかってていねいに注ごう。熱いジュースがペットボトルに直接かかると瓶が融けて泣きをみるぞ。
Look at crying !

瓶を握ってみて、だいたいお風呂くらいの温度になっているか確かめよう。
Check it out !

さあ、ここでドライイーストを小さじ三杯くらい入れよう。
酵母菌にとって、暖かくて砂糖たっぷりのこのジュースは夢のような環境だ。こうして、雑菌が繁殖する余地を与えずに、一気に酵母菌だけを繁殖させるのだ。
Bleed it !

最初に暖める、砂糖をたくさん入れる、それがお酒を確実につくるコツだ。
3時間ぐらいして、二酸化炭素の細かい泡がぶーっと出てきたら成功の証拠だ。そのまま部屋の隅においておこう。大丈夫、腐ったりしないから冷蔵庫には入れないこと。また、かなり二酸化炭素が出るので、ふたはゆるめておこう。
一週間ぐらいでのめるお酒になっているぞ。
Drink it !

また、さらに一ヶ月くらい置いておくと、糖分がすべて分解されて、甘くない、よりキレのあるお酒になるぞ。
Drink it !

大阪でひとり暮らしする中で、自分でお酒が作れる夢のような方法を発見したアーティストが、その方法を解説してくれる啓蒙ソング。
ジャンル的には当時流行していた「ジャングル」だとアーティストは言っている。どうぶつの鳴き声が入っていることがその根拠だという。
詞:トミー / 曲:つるを / 編曲:ナメキ / 1997年
アンビバレンス!
アンビバレンス!
アンビバレンス!
アンビバレンス!

資本主義が イデオロギー!

キルマイセルフ(ゴーレフト)
キルマイセルフ(ゴーレフト)
キルマイセルフ(ゴーレフト)
キルマイセルフ(ゴーレフト)

アンビバレンス!
アンビバレンス!
アンビバレンス!

「極限4」に収録されたトミーの革命歌、「アカのバス」は、「レーニン」「計画(プラン)」「ユートピア」など、現代においてはもはや有効性を持たない言葉に満ち満ちた曲であった。
不満を覚えたアーティストが、この曲からポストマルキシズムの基準においても有効な言葉だけをサンプリングし、正しい文章に組み立て直してみたところ、偶然にも原曲とは似ても似つかない、このようなおしゃれなダンスミュージックになったのだという。ポストマルキシズムとは、かくもありがたいものである。
詞/曲:ナメキ&つるを&ハルヲ / 編曲:ナメキ / 1997年
俺は猫と友達になろうとした
エサを七つドキドキしながら置いた
だけどもそこにエサは残った
人と野獣は交われぬ

俺は猫と友達になろうとした
エサを七つドキドキしながら置いた
だけどもそこにエサは残った
人と野獣は交われぬ

父なる太陽母なる大地のもとで
その時俺は野生の目撃者
父なる太陽母なる大地のもとで
その時俺は野生の目撃者

「極限4」収録の「野生の目撃者」を、百人編成のオーケストラによって演奏したもの。ラフマニノフ風のピアノ協奏曲で始まり、中盤では現代音楽に、そしてサビでは壮大な交響曲が展開される。

おまけ

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フロントジャケット表・裏 + バックインレイ表・裏

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