伊藤 MASA 正則(HM/HR評論家) 1998年3月
 去年の10月にリリースされたナメキケイのソロアルバム「極限4.5」のライナーに、ボクはこう書いた。
 「さらにアーティストは、来年1月から数年間、某国の山奥へ人類学の調査に行ってしまうという。もうナメキ色の音を聴くことはできないのだろうか……。そんな僕らの悲痛な叫びに答えてくれたのが、このソロアルバムなのだ! [中略]ありがとう、ナメキさん、そしてお元気で、ナメキさん!」

 ところがその2ヵ月後、アーティストが調査ビザ取得のための交渉を重ねてきた某国の政権がクーデターにより崩壊。交渉はゼロからやり直しになってしまった。
 アーティストにとっては不運な出来事であったが、出国が延期になり、暇をもてあましたアーティストが、もう一枚アルバムが作れるくらい曲を作ってくれたのは、ボクらにとって最高にラッキーな出来事だった。そう、キミがいま手にしているナメキケイ第2弾ソロアルバム「極限4.6」がそれさ!

 ちなみに新しい政府との交渉は何とか終わり、来月にはアーティストは出国できるようだ。さあ今度こそ言おう! さようなら、ナメキさん! そしてありがとう、ナメキさんと!

【2001年デジタルリマスター版追記】
 その後、2000年の秋にアーティストは無事帰国。このデジタルリマスター版には、帰国後に新たに製作された4曲もボーナストラックとして追加されることになった。
 おいおい、みんなの喜びの悲鳴で音楽がきこえないぜ!

詞/曲:ナメキ / 1998年
与えてもらった餌に脅えて
それでも飛んでける鳥はいいねと君はつぶやいて
その時僕は聞こえないふりを するだけの愛

二人の手のひら高く伸ばせば
太陽もつかみとれるはずなんて嘘を語り合う
ちっぽけな僕等見下ろしている 残酷な空は青

汚れた硝子窓 開けてしまえば
景色も消せる みたいな 気持ち 抱えて

青空を飲み込んでく 歪んだ地平に並んだ樹木を
君の火が焼き尽くす場所へ

僕等が生きてる物語には
楽しいこと悲しいことみんな準備が終わってて
それでも君は握りしめていた 名も知らぬ種

誰かがささやく祈りの声が
滴るような緑の山を野原をいまふるわせ
やがて立ち昇る細い煙を 僕等はただ見る

乾いた絶望の 季節を終わらせるため
君は 一人で 河を 渡る

この世界を壊せるほど 強い力があれば
僕を一瞬だけ 結び付けられる
青空を飲み込んでく 歪んだ地平に並んだ樹木を
君の火が焼き尽くす 場所へ

小さな歩幅で測れた距離は 救われるはず

焼畑農耕民の雨乞いの儀礼をテーマにしためずらしい曲。
静かなアコギではじまり、エレキで盛り上がる――。アーティストが「トゥナイト2」で仕入れたトレンド情報によると、いまこういう曲が若者に受けているらしい。
詞/曲:ナメキ / 1998年
南風が吹く午後は
坂の上立ち停まり 港の音を探します
よその家つつじの陰
白い犬しゃがんでる 挨拶しても知らん顔

だから僕等は 水溜まりひとつ飛び越えて
そして 雨雲ちぎれてくのを見たんです
いま南の風が僕等を 夏にさらいます

麦わら帽子の子供が
潮干狩り 帰り道 大きなペダル踏んでます
駅前の氷屋さん
閉まってる 擦り硝子 夏が来るまで休みです

だから僕等は 帰り道すがら立ち停まり
そこで もうすぐ咲く朝顔を数えました
いま南の風が僕等を 夏にさらいます

張り出す等圧線を 白いかもめがなぞって
風をつなげたら
ほら金魚鉢越しの街も 入道雲の下
いま南の風が僕等を 夏にさらいます

梅雨明けを待つココロを歌ったさわやかな曲。失敗と成功の間をあやうく行き来する裏声が、マニアにはこたえられないハズだ。
詞:ありよっち / 曲:ナメキ / 1998年
咲いたばかりの たんぽぽの花
風に吹かれて ゆらゆらゆれる
空の広さを 確かめるように

ずっとここまで 歩いてきたけど
なぜか答えが 見つからなくて
街の中 人ごみに まぎれこみました

ふりむけば はしゃいだ日々が
いつだって むかえてくれるけど
過ぎ去った月日と 夢をくらべて
古い唄 くちずさみながら 少し涙こぼしました

咲いたばかりの たんぽぽの花
風に吹かれて ゆらゆらゆれる
空の広さを 確かめるように――

生ギターだけのシンプルな曲が歌いたい、というありよっちのリクエストに答えた曲。
ただし、ありよっち側は、山崎まさよしみたいな曲をイメージして「生ギターだけ」と表現したらしいが、対してナメキ側は「生ギターだけ」という言葉から70年代フォークゲリラのようなものを想像してしまい、結局このていたらくに。
詞/曲:ナメキ / 1998年
どこかの国の街角 君は迷子になったふり
運河に架かる橋から 僕は迷子を探すふり
街を進む楽団の知らない曲をたどって
駆け抜ける石畳 垣間見る海
あー太陽と(ばね仕掛けの玩具売る移民を)
あー旅をする(手を引かれた子供が振り返る)
あーどこまでも

僕ら退屈抱きて 魚を食べに部屋を出る
素敵なカフェを見つけたら
ウサギみたいな恋をする

海の彼方白いハーブ奏でる君
まるで天使翼広げて
あー太陽と(変に胴の長い黒いネコが)
あー旅をする(量り売りの赤い魚見てる)
あーどこまでも

二十世紀の終わりに僕の天使は微笑む
螺旋階段駆け上がり捕まえた鳩
あー太陽と(永遠なるもの地上に探す君)
あー旅をする(寝癖のついたおかしな髪型)
あーどこまでも

異国情緒を感じる言葉をつなぎ合わせただけの歌詞が、アーティストのヨーロッパ知識の薄っぺらさを如実にあらわす一曲。
新婚旅行でヨーロッパに行くつるを夫婦にインスパイアされて作った曲だが、帰国後で聞いた話では、イースター島とか南米とか、怪しい国々をめぐる世界一周貧乏旅行だったようである。
詞/曲:不詳 / 編曲:ナメキ / 1998年
mudu kporan'yo, nza'ngi'nza mudu kporan'yo.
mudu kporan'yo, nza'ngi'nza mudu kporan'yo, ana tata.
ba'kpere gu'ndo, moe kana'ngaleni.
nyekere nyekere mbati'mbo soro, ako ana tata.

tata liekoyokoe kana'ngaleni.
(コーラス:ba'mbili gu'ndo, ako ana tata.)
wili gba-ya, wili gbayatyako, ga'mbakti.
(コーラス:moda liekoyo kai katakaleni.)

nza'ngi'nza mudu kporan'yo, ana tata.
(コーラス:ba'mbili gu'ndo, ako ana tata.)
nyekere nyekere mbati'mbo soro, ai ana tata.
(コーラス:moda liekoyo kai katakaleni.)

民族音楽学の雑誌、African Music.にスコアが載っていたスーダンのアザンデ族の歌。八分音符×12のラインと、付点八分音符×8のラインを同時に鳴らして、24/16の裏打ちビートを発生させるという、第五期クリムゾンのようなバッキングパターンに感動したアーティストがギターで再現したもの。
詞:ありよっち / 曲:ナメキ / 1998年
東の空が 白く白く白く変わる
そしてあたし ゲームやめてふとんにくるまる
(ダラダラと生きる) めざまし止め
(ダラダラと生きる) 授業きょうもサボる
(ダラダラと生きる) だって眠いから
それがあたしの都合

チャイムが鳴り 留守電が答える
でもあたし まだ夢の中……

― 逃すなチャンスを……
― 花は枯れたよ……
― ふるさと捨てたっ!

いつの間にか 夜もふけてる
ちょっとだけ 借りたまんが続き読みたい
(ダラダラと生きる) 今日の仕事
(ダラダラと生きる) 明日やればいいや
(ダラダラと生きる) だってテレビあるし
それがあたしの都合
残ったおはぎ全部食べちゃえっっ

最初にアーティストが書いたダラダラした歌詞に対し、さらにありよっちが「あたしはもっとだらだらしてるよっ」と変な対抗意識を燃やしてしまい、詞を徹底的にテコ入れ。結果、このような作品に。
ソロの最中に聞かれる意味不明のシャウトは、ありよっち独自のジャニス解釈を示すものか。
詞:ありよっち / 曲:ナメキ / 1998年
窓辺にゆれる まぶしいひかり
闇夜を照らし つもる粉雪
舞い散る ましろは
吐息を かきけし……
このまま雪のあかりに 溶けてしまいたい
いつかのあのぬくもりは もう帰らない

写真のなかの 夏がやさしい
昔の恋と 忘れたはずさ
差し出す てのひら
溶け出す 結晶……
もいちど生まれ変わって また会いたいな
景色はうつろうけれど ぼくはここにいる

二人の 時間が
めぐって 迷って……
もいちど生まれ変わって また会いたいね
季節はうつろうけれど ぼくは祈っている

春がきても 夏がきても 秋になっても……
笑ってても 夢をみても 恋をしても……
春がきても 夏がきても 秋になっても……
笑ってても 夢をみても 恋をしても……
春がきても 夏がきても 秋になっても……
笑ってても 夢をみても 恋をしても……

もともとはつるをの結婚式で弾き語るために作った曲。歌詞も最初は違っていたが、後日ありよっちより「あんたの歌詞ではおとめちっくなキモチがぜんぜんつたわらない」などと心ない批判を展開。人格丸ごと否定されたアーティストがボー然としているうち、ありよっちが作ってきたぜんぜん違う歌詞が吹き込まれることで完成した曲。
詞/曲:ナメキ / 1998年
小さな君の肩 記憶に残すため
言いかけたサヨナラも
すべて捨て 君を抱きしめる

いま 僕等を包みこむ 時間も歩みを止めていく
ほら 僕等はつながれる 広い空の下で

笑顔見せて 手を振って また逢えるから
きっと逢えるから

わけあってニューギニアの奥地に3年くらい行くことになったのだが、その出発直前に録音した曲。この期に及んでもまだファルセットに挑戦する負けん気で、フィールドワークもがんばってきた。
詞/曲:ナメキ / 2001年
見てくれオレのマシーンを
 ニッポン製のヤンマーディーゼル
横流しの中古品
 でも手こぎのやつらにゃ負けないぜ
家船 船のかたちの家なのか?
家船 家のかたちの船なのか?

家船の屋根の色 いろいろ
 どんな色 海の色
東シナ海の三丁目
 そのあたりがあの娘んち
家船 船のかたちの家なのか?
家船 家のかたちの船なのか?

どうなのか?(どうなのか?)
 そうなのか!(そうなのか!)
どうなのか?(どうなのか?)
 そうなのか!(そうなのか!)
どうなんだ?(どうなんだ?)
 元気なのか?

東シナ海沿岸には、船を住居として漂海生活を送っている人々がいると云ふ。民博の大学院の後輩が、中国にその「家船」の調査に行くことになったので、記念に作った曲。ナンセンスな歌詞を続けた後、最後の最後でほろっとさせるという、あざとい作りの歌詞が心に刺さる。
ニューギニアから帰った後、2001年に作った曲。今回ボーナストラックとして収録。
詞/曲:ナメキ / 2001年
ゆるやかな坂をのぼると
さびたバス停のとなりで
わすれてた思い出がひとつ
ふれたら空にとんでった

いろんなことがありました
こういうことになりました
とにかくよしとした

わらった顔もたくさん持って
なきべそ顔も大事に持って
あの坂をかけあがって
旅に出る

あるくたびたちどまるたびに
カバンの中で音たてる
みんなのくれたひょうろく玉
なんとかなるさってささやく

いろんな人に会いました
さらに大きくなりました
まだまだ育つはず

大きな声はふくろにまとめ
小さな声は名札をつけて
いつもの日々にしおりをはさみ
また会おうってつよく手を振って
だんだん早いかけあしで
旅に出る

同時期、もうすぐバングラディシュだかどこだかに調査に行く後輩のために作った曲。エキスポロードというのは、JR茨木駅から民博のある万博公園までダラダラ続く長い坂のこと。
相変わらずボーカルの音程がフラフラしているが、そこは清濁併せ呑むオトナ的判断によってひとつ看過していただきたい。これもニューギニアから帰った後、2001年の作品。
曲:ナメキ / 2001年
同時期、ほかにもトルコやインドにフィールドワークに出る後輩がいたので贈る曲を作ろうとしたのだが、さすがに力尽きてしまい、歌詞まで完成しないうちに旅立たれてしまった。さらに、そのまま作業を中断しているうちに月日が流れ、その後輩が帰国してしまったので、結局未完成のままに終わってしまった曲。
フィールドに出るのは結構だが、アーティスト側の製作ペースも考えてほしいものである。これもニューギニアから帰った後、2001年の作品。
詞:部会にて決定 / 曲:ナメキ / 2001年
(着メロ:旧部歌)
「はい、もしもし」
「あ、先輩、オレですけど
 今度の合宿、来られますよね?」
「いやあ、土曜までに来期の事業計画を出さなきゃいけないんだよ」
「えー、行けないんですか」
「いやあ、社会人もつらいんだよ」
「あーあ、変わっちゃいましたね先輩、もう忘れちゃったんですか? オレたちの、あの歌を……」
「え? 歌?」

アマゾン河に落ちれば
二度と這い上がれない
だけど現地の人々は
v 水を浴びている 「危ない!」

襲いかかるピラニアの群れ
これが自然のオキテなのか
人間よ 自然に学べ ウォォォ!

幹部の作った男闘呼汁
エキスのおかげか 暖まる ハイ!

「先輩ありがとう」「先輩大好き」
入ってよかった探検部 ハイ!
「先輩ありがとう」「先輩大好き」
入ってよかった探検部
立教!

吸血ヒルに吸われて
仲間が死んだのさ
疲労のためかウトウトと
しだしたその時だ
「ん? ケモノのニオイがする!」

思いがけぬ野獣の群れ
とっさにオレ ナイフ抜く
人間よ オレに学べ ウォォォ!

幹部の注いだ男闘呼酒
なぜだか泣きながら もう一杯 ハイ!

「先輩ありがとう」「先輩大好き」
入ってよかった探検部 ハイ!
「先輩ありがとう」「先輩大好き」
入ってよかった探検部

ときめききらめきセンセーション
僕らのハートをわしづかみ

「先輩ありがとう」「先輩大好き」
入ってよかった探検部 ハイ!
「先輩ありがとう」「先輩大好き」
入ってよかった探検部
立教! 立教! 立教!

「行くよ……ぜったい行くよ合宿に! 思い出したよ、あの頃のときめきを、そしてきらめきを!」
「先輩ありがとう!」
「後輩ありがとう!」
「探検部ありがとう!」

アーティストの帰国祝いに録音された探検部歌の2001年ミレニアムバージョン。「先輩大好き」の部分はトリが歌っている。現役時代にはついに聞けなかった心のこもった言葉である。
冒頭の茶番劇はツルヲとゴトウによるもの。

おまけ

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